「ハンコもらうために出社します」という矛盾
テレワークが広がった今でも、こんな声を聞くことがあります。
「在宅勤務なんですけど、部長の押印が必要なので午後から出社します。」
往復の通勤時間は2時間。ハンコを押してもらう時間は30秒。書類を総務に届けて5分。合計2時間35分のうち、本当に必要だった時間はわずか数分です。
宮城県内の中小企業でも、テレワークやハイブリッド勤務を取り入れる会社が増えてきました。しかし、承認フローだけが紙とハンコのまま残っている、というケースは非常に多いのが現状です。
紙とハンコの承認フローが抱える問題
1. 承認待ちで業務が止まる
紙の稟議書は、物理的に承認者の手元に届かなければ先に進みません。承認者が出張中、外回り中、あるいは単に席を外しているだけで、書類は机の上に放置されます。
ある建設業のお客様では、資材の発注承認に平均5営業日かかっていました。承認者が3人いて、全員のハンコが揃うまで待つ必要があったからです。その間に資材価格が変わってしまい、見積もりを取り直すこともあったそうです。
2. 書類の紛失・差し戻し
紙の書類は紛失のリスクがあります。「あの申請書、どこにいった?」と探し回る時間は、誰にとっても無駄でしかありません。また、記入漏れや金額ミスがあった場合は差し戻しになり、また最初からやり直しです。
3. 記録が残りにくい
紙の承認書類は、ファイリングして棚に保管するのが一般的です。しかし「去年の10月に承認した備品購入の稟議書」を探し出すのに、何分かかるでしょうか。監査対応や過去の意思決定の振り返りにも、紙ベースの記録は不便です。
「でもハンコには法的効力があるのでは?」という誤解
よくある質問です。結論から言えば、日本の法律上、契約や承認にハンコは必須ではありません。
2020年に内閣府・法務省・経済産業省が連名で公表した見解でも、「契約書に押印がなくても法的効力に影響はない」と明記されています。社内の承認フローであればなおさら、ハンコの有無が法的問題になることはまずありません。
もちろん、取引先との契約書など対外的な書類については、相手方の意向もあるため一概には言えません。ただし、社内の経費精算や稟議承認から始めるのであれば、法的なハードルはほぼゼロです。
解決策1: ワークフローツールを導入する
社内の承認フローをデジタル化するワークフローツールは、無料〜低コストで使えるものが多数あります。
- ジョブカンワークフロー: 月額300円/ユーザーから。中小企業向けで導入しやすい
- kintone: サイボウズ製。ワークフロー以外にもデータベースとして活用可能
- Google Forms + Google Apps Script: 無料。シンプルな承認フローならこれで十分
- Microsoft Power Automate: Microsoft 365ユーザーなら追加費用なしで利用可能
これらのツールを使えば、スマートフォンから申請・承認ができるようになります。出張先でも移動中でも、通知が来たら数タップで承認完了です。
解決策2: 電子署名を活用する
取引先との契約書にも対応したい場合は、電子署名サービスの導入が有効です。
- クラウドサイン: 国内シェアNo.1の電子契約サービス。無料プランあり
- DocuSign: グローバル対応。海外取引がある企業向け
- GMOサイン: 月額固定で署名数無制限のプランあり
電子署名を使えば、契約書の送付から署名、保管まですべてオンラインで完結します。印刷、郵送、返送待ちの時間がなくなり、契約締結までのリードタイムが大幅に短縮されます。
解決策3: 段階的に移行する
いきなり全ての承認フローを電子化しようとすると、現場の抵抗が大きくなりがちです。以下の順番で進めるのがおすすめです。
- ステップ1: 社内の経費精算・備品購入申請など、リスクが低いものから電子化
- ステップ2: 稟議書・休暇申請など、承認者が複数いるフローを電子化
- ステップ3: 取引先との契約書を電子署名に移行(相手の同意を得ながら)
ステップ1だけでも、月に数十枚の紙と数時間の移動時間を削減できます。効果を実感してから次のステップに進めば、社内の理解も得やすくなります。
まとめ: ハンコ文化を責めるのではなく、選択肢を増やす
紙とハンコの文化を全否定する必要はありません。大切なのは「ハンコのためだけに出社する」という非効率をなくすことです。
デジタルで済むものはデジタルで。紙が必要なものは紙で。選択肢を増やすことが、働きやすい環境づくりの第一歩です。まずは社内の承認フローを1つだけ電子化してみるところから始めてみてください。